義父と夫の不穏な空気も何ヶ月か過ぎた頃には元の関係に戻っていました。血の繋がった家族というのはそういうものかも知れません。
たびたび起こる家族間のトラブルも、ほんの少しタイミングがずれていたら回避できることもあるのかも知れません。
新しい生活も落着き、夫婦で旅行や外食を楽しむ日々が続きます。引越しの翌年がちょうど結婚25周年の節目の銀婚式ということで、都内のお洒落なレストランでお祝いしました。
アルコールが身体に回ってきた頃、夫が思わぬ一言を口にします。
「俺は悪い男だよ」
悪いといえば、短所という意味でそういう部分もあるかも知れないが、それはお互い様のことだから今さら改めて言うことでもないのにと、その時は聞き流して終わりました。
それから1ヶ月も立たないある日の夜、NHKにしては珍しく、不倫を題材にしていたドラマを見ていた時のことです。浮気をする旦那さんに対して妻が激しく動揺し取り乱すシーンでした。
「この女性の立ち場だったらどうする?」
「冷静ではいられるはずがないわよ」とドラマの展開にドキドキしながら答えます。
この夫の意味深な2つの言葉は、この後の告白を示唆した言葉だったのです。
その数日後の夕飯時、食事も終わりかけた頃いきなり夫が話し始めました。
夫として息子たちの父親として十分やってきた 俺の役目は終わった
自分も男としてあと10年、残りの人生を自由に過ごしたい
息子たちが20歳を過ぎたら離婚して別々の人生を歩みたい
自分は出ていくので貴女はここに住んでいていい 離婚後の生活費も渡す
貴女が嫌いになったわけではない 悪いところがあったわけではない
可愛らしくて賢くて楽しくて一緒にいると心安らぐ女性にやっと出会えた
急な告白に決断できるはずもなく、涙で汚れた顔を大きく何度も横に振ります。
私が相続権を取得するために、義父の養子になるという方法もあるとも言われました。
人の心は変わるんだ!1度しかない人生を楽しみたい
はやく離婚の決断しろ!俺がお前を嫌いになったら財産一銭も渡さない
妻とは離婚、死別などと理由をつけて婚活サイトで何人もの女性と接触し、やっと出会えた女性だというのです。ここまでストレートに離婚を迫られたら、私が同意すればこのままあっという間に夫婦の関係は終了します。
怒り・悲しみ・戸惑い・不安・焦りがごちゃまぜになりながらも、もう元には戻れないと思っても、なんとか修復したいとその時は思ってました。
ドッキリで脅かされてるのかも、とさえ思ったほど晴天の霹靂の出来事でした。
12月に入って間もない頃の出来事でしたが、かすかな修復の望みを持った私は、心とは裏腹に義父母や息子たちの前では気丈に振る舞います。なんとか年末まで持ち堪えましたが本当に苦しい時間でした。
銀婚式を祝ったあの時に言われた「悪い男」の意味にやっと気づくのです。ワインで乾杯した時のシーンは、黒板消しで消すように一気に私の記憶からなくなっていきました。
そして年が明けて3が日が過ぎた頃、義父母が1枚の紙を持って家にやってきて、また耳を疑う提案をしてきたのです。